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高松高等裁判所 昭和30年(ネ)249号 判決

控訴人 久保井富士雄被

被控訴人 亡久保井都太郎遺言執行者 岡井藤志郎 外八名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は(一)原判決中控訴人勝訴部分を除く部分を取消す(二)松山市湊町四丁目弐拾六番地の参松山地方法務局所属公証人佐伯研治作成に係る愛媛県伊予郡下灘村大字串甲弐千参百七拾四番地農業遺言者久保井都太郎(明治十四年一月十三日生)の遺言公正証書(第参万七千七百拾八号)の無効なることを確認する、(三)被控訴人水沼寿丸は原判決添付目録第五表記載の不動産中5乃至7及び9乃至17に対し控訴人が各拾分の九の共有特分を有することを確認し、これが共有名義の移転登記手続をなすべし(四)被控訴人久保井力は前記同表記載の不動産中1及び2に対し控訴人が各拾分の九の共有持分を有することを確認し、之れが共有名義の移転登記手続をなし同目録記載の不動産中3及び4、20乃至22及び24の不動産、同目録記載の内二動産の部、三有価証券組合出資の部、四債権の部に掲ぐる一切の所有権の拾分の九の共有権が控訴人に属することを確認し、右に掲ぐる一切の動産、株券、出資株券並に借用証書を控訴人に引渡し且各債務者に対し亡久保井都太郎の相続人として各右債権の拾分の九の権利の譲渡通知を為すべし(五)被控訴人久保井力及び同水沼寿丸は前記同表記載の不動産中25の不動産に対する亡久保井都太郎所有の四十五分の一の弐拾分の拾九の持分が控訴人の所有に属することを確認する(六)被控訴人久保井力並同水沼寿丸は伊予郡下灘村大字串無番地山林約弐拾歩の拾分の九の持分及び同郡同村同大字字道の上甲弐千参百九拾八番地の弐田(現況畑)弐拾八歩の拾分の九の持分が控訴人の所有に属することを確認し、被控訴人久保井力は同郡同村同大字字道の上甲弐千参百九拾八番地の弐田弐拾八歩の拾分の九の持分を控訴人名義に移転登記手続をなすべし(七)訴訟費用は第一審第二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人岡井藤志郎及被控訴人久保井力、同水沼寿丸訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人において、(一)原判決事実摘示中控訴人主張の請求原因事実二の(1) の「前記調停により原告が受けた別紙第三表の不動産、動産を除き」を削除し、(二)本件第二の遺言は相続上の権利にして、而も本件遺言は身分法上の事項(推定相続人たることの廃除)と一体を為し不可分のものである。而して民法第九三条は第三者保護の目的のために規定せられたものであるが親族法上の行為は第三者の善意なると悪意なるとにより身分関係を一、二にすべきものではなく、真意に非ざる意思表示は無効であると解すべきである。然るに本件第二遺言は単に控訴人をして協議離縁届に捺印せしめる方便に用うるためにしたもので真意に非ざる意思表示であるから無効と謂うべきである。仮りに然らずとするも第二遺言による遺贈の意思表示は遺言者が受遺者(被控訴人等)と相通じてなした通謀虚偽表示であるから民法第九四条により無効である。従つて第一遺言は有効である。又仮りに然らずとするも本件第二遺言は遺言者の死期旦夕に迫つた際に為されたものであるから単に文字のみに拘泥すべきではなくして遺言者の真意を探究すべきものであり、而も同遺言には解除条件付行為であることを推知するに足る表示があるから本件遺言は控訴人主張の解除条件付行為であると謂うべきである。即ち、

1、同遺言書第三条において控訴人等が遺言者の推定相続人たることを廃除した条項は、控訴人が離縁届をするならば無効とするものであり、又同書作成後右届に亡久保井都太郎が同意し捺印の上届出をするならば尚更無効とする趣旨であることを推知し得る。

2、同遺言書第一条によつて被控訴人久保井力に遺贈せられた不動産中には松山家庭裁判所の調停において亡久保井都太郎から控訴人に贈与せられた不動産、即ち原判決添付目録第三表記載の愛媛県伊予郡双海町、(下灘村)大字串字貝杓子甲二千八百十番地の三田二歩外六筆が含まれているところ、同遺言書作成後に亡久保井都太郎及控訴人等が離縁届をなすならば同遺言書の前記部分を無効とする意思であつたことが推知せられるのである。従つて控訴人が離縁届をなした以上条件の成就により第二遺言は失効したものである。

3、原判決添付目録各表中「愛媛県伊予郡双海町云々」とあるを「愛媛県伊予郡下灘村云々」と訂正し、同上第四表末行に、「一、右宅地上に建ててある建物二棟及その建物1に附属の畳建具悉皆」を追加する。

と述べ、被控訴人岡井藤志郎及同久保井力同水沼寿丸訴訟代理人において(一)原判決事実摘示に「第二の遺言書により大修正をせざるを得なかつたものである(原判決九枚目裏七行目)」とある次に「第二の遺言書作成の動機及目的は第一の遺言書が作成さるるもなお離縁届に捺印せず、久保井都太郎をして死に臨み唯一の目的を遂げざらしめんとする控訴人の悪辣なる行為を見て控訴人の相続人たる地位をも奪い一物をも得せしめないという決定的方法をとるためであつた。」と挿入し(二)仮りに第二遺言が無効であるならば、第一遺言も共に無効である。何となれば第一、第二遺言は共に控訴人の離縁届をなさざるに備えたものであつて、当時七人の親族に公正証書を以つて遺贈する必要も意思も全くなかつたのである。控訴人が時々刻々にせまる遺言者亡久保井都太郎の死をまつ戦法に出たので、右遺言者は絶対絶命の境地にたつて万一に備うることのみであつた。

従つて第一、第二遺言は共に、民法第九三条の非真意の意思表示であつて遺言の相手方は何れも右の事情を知つていたものであるから無効である。又同法第九四条の通謀虚偽表示行為であるから無効である。仮りに然らずとするも第一、第二遺言は共に控訴人が離縁届に捺印することを解除条件とする意思表示であつて右離縁届に捺印がなされた以上条件の成就により本件遺言は共に失効したものと謂うべきである。と補陳したほか原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。

〈立証省略〉

被控訴人久保井サヽノ、同高田トクヱ、同寺田明、同寺田ヤヱミ、同高橋恒藤、同畑中砂雄は合式の呼出を受け乍ら当審における本件各口頭弁論期日に出頭せず且陳述したと看做すべき答弁書其の他の準備書面も提出しない。

理由

本件は控訴人から松山地方法務局所属公証人佐伯研治作成第三万七千七百十八号遺言公正証書が遺言者久保井都太郎の真意に出たものでないこと等を理由に、相続人たる被控訴人久保井力、共同受遺者たる被控訴人水沼寿丸、遺言執行者たる被控訴人岡井藤志郎及共同受遺者たる被控訴人久保井サヽノ、同高田トクヱ、同寺田明、同寺田ヤヱミ、同高橋恒藤、同畑中砂雄を相手方として何れも遺言の無効確認を求めるものである。

従つて右相続人、遺言執行者、共同受遺者間においては性質上共同訴訟人に対して同一趣旨の判決をしなければ訴訟の目的を達することができない場合であつて所謂類似必要的共同訴訟に属するものと解するを相当とし、前記共同受遺者七名の間においては訴訟の目的である受贈財産の処分権又は管理権が受遺者全員の共同に属するから所謂固有必要的共同訴訟に属するものと解する。そうすると本件共同訴訟人全員の間においては民事訴訟法第六二条の適用があるところ、被控訴人高橋恒藤、同畑中砂雄が控訴人の請求原因事実を自白し、控訴人提出の書証の成立を認めた行為も他の被控訴人等の訴訟行為と一致する部分以外はその効力なく被控訴人久保井サヽノ、同高田トクヱ、同寺田明、同寺田ヤヱミは原審並当審において合式の呼出を受けたに拘らず各口頭弁論期日に出頭せず且陳述したと看做すべき準備書面をも提出しないので、同被控訴人等に対する民事訴訟法第一四〇条による擬制自白も右の意味において効力がないものと解するので、結局本件は被控訴人岡井藤志郎、同久保井力、同水沼寿丸の訴訟行為を基準として判断する。

(一)  第三万七千七百十八号の遺言の効力について。

控訴人が昭和十八年九月一日亡久保井都太郎及その妻リキと養子縁組、同日同人等の養女繁代と婚姻入籍したこと、同二十七年七月四日松山家庭裁判所で(1) 控訴人等と養父久保井都太郎とは協議離縁すること、(2) 久保井都太郎は控訴人に原判決添付目録第三表記載の不動産其の他の財産を贈与すること、その他を内容とする調停が成立し、被控訴人水沼寿丸も利害関係人として該調停に参如し自己に関する条項を受諾したこと。

其の後同年同月二十日遺言者久保井都太郎は松山地方法務局所属公証人佐伯研治に依頼し、訴外鎌田ふじゑ、同藤山助太郎立会の下に自宅に於いて、(1) 久保井都太郎の養子たる被控訴人久保井力の相続分として同被控訴人に対し前記目録第四表記載の不動産を遺贈し(遺贈の目的物として、控訴人がさきの調停で贈与を受けていた前記第三表の動、不動産が含まれていたか否は暫く措く)(2) 被控訴人久保井サヽノ、同高田トクヱ、同寺田明、同寺田ヤヱミ、同畑中砂雄、同高橋恒藤、同水沼寿丸等七名の受遺者に被控訴人久保井力の相続不動産を除く前記目録第五表記載の久保井都太郎所有の一切の動、不動産其の他の財産を共有として遺贈するその持分は被控訴人久保井サヽノ4/10、その他の被控訴人等は各1/10とすること等の遺言公正証書(第三万七千六百八十四号以下単に第一遺言書と略称する)を口述により作成したこと、

次いで同年同月二十六日再び同公証人は同遺言者のため同人宅で(1) 被控訴人久保井力に対し前記目録第一表記載の財産を相続財産となし、(2) 第一回の遺言の受遺者である前記被控訴人久保井サヽノ等七名に前記目録第二表記載の財産を共有として遺贈すること、その持分は被控訴人久保井サヽノ4/10、其の他の者各1/10とすること、(3) 久保井都太郎の養子たる控訴人及養女繁代を非行を理由として推定相続人たることを廃除する等の遺言公正証書(第三万七千七百十八号以下単に第二遺言書と略称する)を作成したこと及久保井都太郎は同年八月五日死亡したことは当事者間に争がない。そこで右第二遺言が控訴人主張の如く遺言者久保井都太郎の真意によるものでないか否を検討するに、成立に争のない甲第一号証乃至同第三号証と、原審証人泉冬治郎、同鎌田ふじゑ、同高田トクヱ、同寺田ヤヱミ、同高橋恒藤の各証言の一部、原審における控訴本人の供述の一部、原審並当審証人佐伯研治の各証言、原審並当審における被控訴人水沼寿丸の各供述を綜合すれば久保井都太郎は控訴人と養子縁組後十年位同居していたのであるが、両者性格の相違から離縁の話が起り前記の如き調停の成立を見た。ところがその後久保井都太郎は該調停で控訴人に贈与した前記目録第三表記載の不動産その他の財産を除いてその余の同人所有の財産について前記第一遺言書(甲第三号証)を作成したところ、久保井都太郎と控訴人との間において前記調停の協議離縁届の捺印と贈与財産の引渡の履行の前後に関し意見が対立し、その前後の如何によつては、久保井都太郎としては離縁もせずして前記財産を控訴人に贈与する結果となり、控訴人としては離縁されたままで財産の贈与を受けることができない結果となることを互に杞憂し各自の義務の履行を渋つていたところ、親族である被控訴人寺田ヤヱミ、其の他の被控訴人等は調停以来該事件に関与していた被控訴人岡井藤志郎の意見に従い、控訴人が容易に右離縁届に捺印しないので遺言者久保井都太郎生前中に該届出を完了することが出来ないことをおそれ、之に備えるため第二の遺言をする必要があると考え其の旨を遺言者久保井都太郎に告げたところ、遺言者においても之を諒とし一面出来得べくんば離縁届に捺印を得て調停条項通り履行することを希望しながらも離縁届をしないまま死亡すれば自己の財産は大部分控訴人等夫婦の相続するところとなるのをおそれ、且つは死期迫るに容易に離縁届をしない控訴人等の仕打を憎しみむしろ控訴人等の推定相続人たることを廃除して同人等に一物をも与えないことを決意し第二の遺言を口述し前記の如く之を書面(甲第一号証)、に作成せしめた事実が認められる。甲第四号証の一、二、原審証人泉冬治郎、同鎌田ふじゑ、同高田トクヱ、同寺田ヤヱミ、同高橋恒藤の各証言、原審並当審における被控訴人水沼寿丸の各供述及原審における控訴本人の供述中右認定に抵触する部分は前示各資料に照してたやすく信を措き難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。してみると右遺言者の意思は飽くまでも生前中に右離縁届を完了したい希望をもちながらも、控訴人の仕打を憎しみ寧ろ控訴人等の推定相続人たる地位を剥奪して一物をも与えず、前記調停によつて控訴人に贈与した財産をも含めてその所有財産を被控訴人等に分割して遺贈する意思を以て第二遺言をしたものであり、遺言者の真意に出たものと謂わねばならない。

即ち右は控訴人主張の如き非真意乃至は通謀虚偽の意思表示であるとはいえない。

従つてこの点に関する控訴人の主張は採用し難い。

次に控訴人は右第二遺言は控訴人等が離縁届をするならば失効する所謂解除条件付行為である旨主張するので検討するに、原審証人泉冬治郎、同鎌田ふじゑ、同高田トクヱ、同寺田ヤヱミ、同高橋恒藤の各証言、原審並当審における被控訴人水沼寿丸の各供述及原審における控訴本人の供述中右主張に副う部分あるも、甲第一号証の記載及前記認定事実に対比すればたやすく措信し難く他に該主張事実を肯認するに足る証拠はない。

従つて此の点に関する控訴人の主張は採用し難い。

結局第二遺言は適法に成立し前記遺言者久保井都太郎の死亡に因りその効力を生ずべきものとする。

そこで第一遺言(甲第三号証)と第二遺言(甲第一号証)との効力関係を考察するに、前記認定の遺言者の意思及右両個の遺言書の文言等を対比すれば第一遺言書においては前記調停において控訴人に贈与した不動産(第三表記載のもの)等及同遺言において遺言者の推定相続人たる被控訴人久保井力に遺贈する不動産(第四表記載のもの)を除く其の余の動、不動産等一切の財産を被控訴人久保井サヽノ外六名に共有として遺贈する旨記載しあるも、第二遺言書においては前記の如き動機及目的から控訴人等の推定相続人たる地位をも剥奪して一物をも与えない意図を以て全面的に被控訴人等に対する財産遺贈の組替をなすこととし、被控訴人久保井力に対しては第一遺言で遺贈することとしていた不動産のほかに前記調停によつて控訴人に贈与した不動産の中、愛媛県伊予郡下灘村大字串字サヲ乙千五百三十六番地の壱田二反三畝二十四歩(但申立人久保井都太郎の持分に関するもの)外六筆の不動産と前記第一遺言に所謂其の他の財産即ち被控訴人久保井サヽノ外六名に遺贈するとしていたもの(第五表記載のもの)等の中から伊予郡下灘村大字串字池の尻乙二千五百三十番地の参畑一反六畝二十一歩ほか五筆の不動産とを遺贈することとし(第一表の通りとする)被控訴人久保井サヽノ外六名の共有として前記第三表記載の不動産の中から伊予郡下灘村大字串字西ノダハ乙二千四百二十九番地畑五畝二十八歩ほか八筆の不動産と前記に所謂其の他の不動産(第五表記載のもの)等の内から喜多郡喜多灘村大字今防字前畑甲三百七十六番地畑一畝十七歩ほか二十五筆の不動産を遺贈する旨記載してあるが、(第二表記載の通りである)他面前記第三表記載不動産の内伊予郡下灘村大字串字西ノダハ甲二千八百十三番地の五田一畝二十六歩ほか三筆の不動産及前記第五表記載の不動産の中 13 24 25 26の不動産並同表の動産の部有価証券組合出資の部、債権の部に記載の財産等については第二遺言書においては直接表示せられていないのである。右の如く被控訴人久保井サヽノ外六名の共有分としては第一遺言においては唯前記の如き規定の仕方において「その他の財産」と表示したのであるが第二遺言においては前記の如き事情から遺贈物件を特定して表示したのである。これらの事情を彼是考合すれば第二遺言書には特に第一遺言を取消す旨を明示してはいけないけれども遺言の全趣旨から右遺言者の意思は結局第一遺言を全面的に取消した上第二遺言書の通り各不動産を特定して夫々被控訴人等に遺贈するにあるのであつて、第一遺言と第二遺言とは一部同一趣旨のものを含んでいるけれども遺言の全趣旨からみれば二個の遺言は全面的に抵触するものと解するを相当とする。

叙上説示によつて第一遺言は第二遺言によつて全面的に取消されたものと看做される結果失効し、第二遺言のみが全面的に有効に存続するものと解すべきである。

仍て第二遺言の無効確認を求める控訴人の請求は理由がない。

(二)  次に控訴人主張の請求趣旨(三)(四)(六)の請求について判断する。

(イ)  控訴人は前記第五表中の不動産の内5乃至7及9乃至17の不動産の所有名義は昭和二十七年三月十四日久保井都太郎より売買により被控訴人水沼寿丸に移転登記がしてあるけれども、右は久保井都太郎及同被控訴人の通謀による仮装の移転登記にして無効である。同被控訴人も利害関係人として前記調停に参加し該条項第十二により久保井都太郎に右不動産を返還することに同意したものである。

而して右不動産は第一遺言によれば全部被控訴人久保井サヽノ外五名及被控訴人水沼寿丸の遺贈部分に含まれていること明らかであるから、久保井都太郎死亡により右久保井サヽノ等が当然遺贈を受ける権利があり、控訴人は前記の如く被控訴人水沼寿丸を除くその余の六名から9/10の権利の譲渡を受けたので、被控訴人水沼寿丸等に対し該権利の確認並共有持分権の移転登記を求め(請求趣旨(三)に関するもの)

(ロ)  前記第五表の不動産中1及2の不動産は第一遺言によれば前同様被控訴人久保井サヽノ外六名の遺贈部分に該り、しかも右遺言が遺言者久保井都太郎の昭和二十七年八月五日死亡により効力を生じ、右受遺者等の権利に帰したに拘らず、被控訴人久保井力はその後同年十一月二十八日相続登記をなしているもので、右は無権原による無効の登記である。然るに控訴人は前同様その権利を譲受けたので前記9/10の権利者として該権利の確認並共有持分権の移転登記手続を求め。又被控訴人久保井力は前記第五表中の不動産の3及4、20乃至22並24の不動産及同表二、動産の部三、有価証券、組合出資の部四、債権の部に掲ぐるものを自己の所有として占有するも、右は全部第一遺言によれば前記被控訴人久保井サヽノ外六名の遺贈を受くべき部分に該当し、その9/10は前記同様控訴人が譲受けたものであるから、該権利の確認並引渡及譲渡通知を求め、(請求趣旨(四)に関するもの)

(ハ)  又前記第五表記載の不動産の内26(伊予郡下灘村大字串無番地山林約二十歩)27(同郡同村同大字字道の上甲二千三百九十八番地の二田二十八歩現況畑)の不動産も第一遺言により前記六名の受贈部分に該当し、前同様控訴人が9/10の持分権を譲受けたものであるから、被控訴人久保井力、同水沼寿丸に対して該権利の確認を求めると共に右27の不動産は被控訴人久保井力名義に相続登記がなされているので、その9/10につき同被控訴人に対し該共有持分の移転登記手続を求める(請求趣旨(六)に関するもの)尚前記第五表記載の不動産の内8の不動産は本来控訴人及その妻繁代並久保井都太郎が共同相続人として被相続人久保井リキの死亡(昭和二十六年三月二十一日)により各1/3の相続分を取得していたものであるが、前記調停条項第十二項に拠つて久保井都太郎が水沼寿丸一名より返還を受けて同人の所有に回復した1/3の持分は第一遺言により前記久保井サヽノ外六名の受贈物件となり、控訴人は同人等よりその9/10の持分を譲受けたので被控訴人力に対し同被控訴人が久保井都太郎の相続人として、同人の右1/3持分の相続登記をなした上、控訴人がその9/10の持分を有することを確認し且之れが共有持分の移転登記手続を求める。

と主張するけれども第一遺言が取消されたと看做される結果失効したること前叙の通りであるからその有効であることを前提とする之等の請求は既にこの点において理由がない。

(三)  次に控訴人は被控訴人久保井力及同水沼寿丸に対し前記第五表記載の不動産の内25の不動産の1/2は前記調停条項第十二項により久保井都太郎より贈与を受けた旨主張するので検討する。(請求趣旨(五)に関するもの)

成立に争のない甲第二号証、原審における控訴本人の供述により成立を認めうべき甲第九号証の一・二及右控訴本人の供述によれば右不動産は四十五人の共有林で久保井都太郎はその1/45の持分を有していたところ、前記調停前被控訴人水沼寿丸に仮装的に譲渡していたものであるが、調停条項第十二項により控訴人に贈与したその他の財産のうちにその1/2の持分が含まれているものであり、現在被控訴人水沼寿丸が之を占有している事実を認めるに足る。してみると控訴人が被控訴人水沼寿丸に対し右不動産の久保井都太郎の持分1/45の1/2が控訴人の所有に属することの確認を求める部分は理由がある。

然れ共右不動産の其の余の1/2持分は第一回遺言により前記久保井サヽノ外六名の遺贈部分に該当し控訴人はその9/10を久保井サヽノ外六名より譲受けたとの控訴人の主張は前記の通り第一遺言が失効したのであるから既にこの点において理由がない。

又右持分が被控訴人久保井力の相続財産に属していたことを認めるに足る証拠がないから爾余の点の判断をまつまでもなく同被控訴人に対し該権利の確認を求める利益がないのでこの部分は理由がない。

叙上説示により控訴人の本訴請求は右認定の限度において正当として認容すべく、爾余の部分は失当として之を棄却すべきものとする。

仍て右と同一帰結に出た原判決は正当にして本件控訴は理由がないから之を棄却すべく、民事訴訟法第三八四条第八九条第九五条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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